馬。翻訳される。英語編


英⇆日の翻訳をしている私が、それぞれの言語のインタレスティングなことわざ・慣用句などを紹介したい!訳を試みたい!と思いついたのは約1ヶ月前。それからたくさんの面白い英語日本語の言葉を集める。アイディアをまとめて記事を書こうとすると、私のノートに偶然日本語の馬表現が多いことに気付く。調査してみると英語にも馬表現がたくさんありテンション上がる。今回は馬表現の英語バージョン。

(この馬かわいいね。)

言葉のイメージ

みなさん、いかがお過ごしですか。タカです。今回も馬です。私が前回に書いた記事は「馬が含まれている日本語表現」でした。今回は英語の馬表現を紹介したいと思います。

ことわざや慣用句は比喩やアナロジーを用いたものが多く、ある言語の話者が物事に対してどのようなイメージを持っているのか、明らかにしてくれることがたくさんあります。例えば、「花より団子」。外見よりも実利を優先する例えですが、英語だと’Bread is better than the songs of birds (鳥のさえずりよりもパンの方がいい)’が同じ意味のことわざとして紹介されます。「日本語話者は団子を、英語話者はパンを実利と考える」と決めつけてしまうのは短略的ですが、このように例えが言語によって異なるのは、あるモノが喚起するイメージが言語によって異なることを示しています。

このイメージの違いはコミュニケーションを測る時に弊害になる場合もありうまく理解できないと翻訳は円滑にできない、と気付きました。と同時に、今までに考えたことのない視点が発見でき、言葉の面白さ(イコールその言葉を話す国や地域の文化・歴史・宗教背景の面白さ)を感じることができます。

馬が含まれている英語の表現で言葉の面白さを体験しましょう。では、英語の馬表現5つ、お楽しみくださいませ。


馬表現1

どんなにチャンスを与えても何も行動を起こさない人がいますよね。反対に、どんなに指導をされても自分が従いたくない場合もあると思います。どんなに指導しても効果がなくうんざりしてしまう。あなたに何かの強要しようする人がいる。そんな状況にピッタリのことわざです。

1. you can lead a horse to water, but you can’t make it drink

直訳:「馬を水まで導くことはできるが、無理に水を飲ませることはできない」

意味は、

「機会を与えたり指導したりすることは可能だけど、強制することはできない」

このことわざは、現在使われている英語のことわざの中でも歴史が深いそうです。12世紀には既に使用が記録されています。しかし一説によると、語源は英語ではなく、元を辿ると聖書かギリシャ語にあるのではと言われています。

A: I taught him how to do it, but he is not making any progress at all.

「彼にやり方を伝えましたが、全く改善されません。」

B: Yeah, but you can lead a horse to water, but you can’t make it drink.

「そうか。でもチャンスを与えることができても、無理を強いることはできないよ。」

・I understand you feel that way. But you can lead a horse to water, but you can’t make it drink.

「あなたがそう思うのもわかるけど、どんなに教えても最後に行動するのは本人だよ。」

 


馬表現2

馬の口の中なんかわざわざ見いひんやろ言われても見たないわ、と素人は思うでしょう。私はそう思います。でも馬の口の中を見るとわかることがあるそうです。そんな事実からできた表現がこちら。

2. don’t look a gift horse in the mouth

直訳: 「贈り物の馬の口内を見るな」

意味は、

「貰い物の詮索をするな/プレゼントの粗探しをするな/プレゼントに感謝しろ」

専門家は歯を見るとその馬が若いか老いているか、馬齢が判断できるそうです。その事実から生まれたこのフレーズには、プレゼントを受け取った時にその価値を審査したりあれやこれの方が良かったと文句を漏らしたりするな、という教訓が込められています。

・Come on! Don’t look a gift horse in the mouth. I haven’t received any.

「貰い物に文句つけるなよ。俺は何も貰ってないんだぞ。」

・ Why would you look a gift horse in the mouth? You should be grateful.

「何でプレゼントの欠点を探そうとするんですか。感謝すべきですよ。」

 


馬表現3

(何がたのしーてこんな幸せそうやねん。)

日本語の馬表現は、馬をネガティブに捉えたものが多かったですよね。野次馬。年老いた馬は役に立たないことが語源。馬耳東風。馬にとって春吹く風は何でもないことが語源。しかし、この英語表現は馬を信頼できる存在として捉えています。

3. straight from the horse’s mouth

直訳: 「馬の口から直接」

意味は、

「当の本人から/直接確かな情報源から」

この表現は競馬が由来のようです。「どの馬のコンディションがベストか」など競馬で勝つための情報を知っているのは調教師・馬主・騎手・馬小屋で働いている人、と様々です。でも誰よりも詳しく知っている存在が…馬自身である、という考えから生まれた表現です。ちなみに日本語では「馬が合う」という表現が、競馬に由来するものでしたよね。

・This is not straight from the horse’s mouth, so you shouldn’t depend too much on it.

「これは確かな情報源から得たものじゃないから、あまり信用しないほうがいいよ。」

・Why am I so sure about it? Because I heard it straight from the horse’s mouth.

「なぜそんなに確かかって?だって当の本人から聞いたのだから。」

 


馬表現4

「『馬に乗っている人』をイメージしてください」と指示さたらどのような光景が浮かんできますか。疾走している馬に乗っている騎手?牧場で乗馬体験している人?時代劇でみるような騎士や将軍などの権力のある人?

4. Get off one’s high horse

直訳: 「大きい馬から降りる」

意味は、

「人を見下すのを止める/高慢な態度を止める」

日本語でも「高い」という概念は権威や優等さと結びついています。「崇高」「高級」「高貴」などは優れて権力のある存在のイメージを彷彿させます。また、「高慢」「高飛車」のように傲慢さを示す場合もあります。この熟語はそういったイメージから生まれたものです。

英語でも’high-handed’(独断的な)や’high and mighty’(横柄な)など、’high’という単語と横暴さが結びついた表現があります。

・He is not going to be promoted until he gets off his high horse.

「高慢な態度を止めるまで、昇進はないでしょう。」

・You’d better get off your high horse. Otherwise, your reputation will remain bad.

「人を見下すのをやめた方がいいですよ。じゃないと評判が悪いままになってしまいます。」

 


馬表現5

‘flog’とは「鞭を打つ」、’beat’は「叩く、打つ」という意味です。競馬場に行ったことがない人でもジョッキーが馬を鞭で叩いて軽快に前進している映像は見たことがありますよね。なんとなく意味が推測できるのでは?

5. Beat/flog a dead horse

直訳:「死んだ馬に鞭を打つ」

意味は、

「無駄な努力をする/無意味なことをする/もう既に済んだ話を蒸し返す」

ある説によると、この由来は19世紀後半のイギリスにあると言われています。議会政治が定着していく中で選挙権の拡大が見られたこの時代。選挙法の改正が提案された時に、ある政治家が何をしても選挙権を大きな課題と考えない議会を揶揄して「無関心な議会に興味を持たせるなんて ‘flog a dead horse’ のようだ」と発言したと伝えられています。それから「無駄な努力をする」「誰も興味を持っていない話をする」という表現として使われるようになったようです。

・She is trying really hard to get it done today, but unfortunately, I think she is beating a dead horse.

「彼女は今日中に終わらせようとしていますが、残念ながら無駄だと思います。」

・Don’t flog a dead horse! We have already reached a decision about this.

「話を蒸し返さないでください。これについてはもう結論に至ったじゃないですか。」

 

※偶然にも日本語にも「死に馬に鞭打つ」というすごく類似したことわざがありますが、意味が異なるので注意。「賭け事などで、既に負けることが確実な相手に対して追い打ちをかける」という意味です。

ちなみに日本語で①「’flog a dead horse’ と似たような意味をもつ」②「『馬』と『死』が含まれる」表現は「死に馬に鍼(を)刺す」です。死んだ馬に鍼を刺すなどの治療を施しても何の効果がないことから「何も効果がない」ことの例えとして用いられます。


 おわりに

 

ここでは前回に引き続き英語の馬表現を紹介しました。楽しんで頂けたでしょうか。

馬を使った様々な言葉。並べてみると人々が馬をどんな視点から見ているか、少しわかった気がして面白いです。

このようにことわざ等を調べていると、奇妙なものをたくさん発見できて楽しく語彙力を増やすことができている気がします。この楽しい体験を共有できていると嬉しいです。

『翻訳できない世界のことば』(エラ・フランシス・サンダース著・前田まゆみ訳)というベストセラーがありますが、その本は簡単に訳すことができない世界中の国・言語特有の言葉を集めて紹介しています。皆さんも簡単に訳せないユニークな日本語表現を探して見てください。そして、今学んでいる外国語でそれを説明しようとしてみてください。

日本語もより深く知ることができ、外国語の勉強にもなります。そんな体験をこの記事でして頂ければと思います。「馬。翻訳される。日本語編」も是非!

<筆者プロフィール>
ペンネーム: Donté Taka(ダンテ・タカ)
生まれも育ちも大阪、東京在住
Hip-hop好き、文学好き、映画好き
最近見てめっちゃよかった映画は
‘Romeo is bleeding’。ドキュメンタリーです。

 

参考:

 


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